『熱、諍い、ダイヤモンド』(ポール・ファーマー著、岩田健太郎訳,メディカルサイエンスインターナショナル)を読む
日時:2023年1月20日(金)13:00~15:00
場所:東京大学駒場Ⅰキャンパス14号館407号室
記録:
TINDOWSの医療班では活動の一環として、環インド洋の医療に関連したテーマをあつかった著作を定期的にとりあげ、人類学と歴史学のメンバーの対話を試みる予定である。その第一回目として、医療人類学者で、世界的な医療活動で知られる医師でもあったポール・ファーマーの『熱、諍い、ダイヤモンド』を取り上げた。本書は三つのパートによって構成されている。その最初のパートでは、2014年に西アフリカ(シエラレオネ、リベリア、ギニア)でエボラが大流行した際に臨床医として派遣された著者自身が治療施設で目にした光景が描かれている。この点について、参加者のあいだからは臨床の実践家の視点からの記述のリアリティを高く評価する声があがった。また、このパートではエボラのサバイバーの人々の事例が取り上げられるが、彼らのケアに関する語りや実践に参加者らは強く印象づけられた。その記述には近年の医療人類学の潮流(Second Chances: Surviving AIDS in Uganda(Susan Whyte ed., Duke UP)など)だけでなく、人間を生社会的な存在として捉えるファーマーの視座が反映されているという指摘もあった。
興味深いことに、本書のパート2は一転して歴史に向けられる。著者の関心はゼロ号患者を特定し、アウトブレークのプロセスを解明することよりも、臨床が軽視され、感染症の管理のみに焦点を当てるパラダイムがそもそもどのように形成されてきたのかを長期的にたどることにある。著者が採用した本書の構成と歴史叙述は、本書のユニークな点のひとつとして見ることができる。さらに、「ケアよりも管理」が優先される現状とその歴史性を微細に厚く描いている点に、本書の意義があるという整理がなされた。
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