日時:2023年3月31日(金)13:00~15:00
場所:東京大学駒場Ⅰキャンパス14号館407号室
記録:
TINDOWSの医療班では第三回の読書会として、『アフリカ眠り病とドイツ植民地主義』を取り上げました。本書は、ドイツがアフリカの各植民地で実施した眠り病対策を事例として、「熱帯医学」がどのように社会に適用されたのかを比較史的に考察した著作です。著者の磯部先生は本プロジェクトの研究分担者でもあり、本書は先生がドイツのコンスタンツ大学に提出した博士論文を加筆、修正したものです。先生自身が序章で指摘しているように、眠り病は開発原病として位置づけられます。つまり、眠り病は植民地開発や、労働者や商品の移動が引き金となって蔓延しました。さらに、その流行は天然ゴムの生産や人々の国境を越えた経済活動など、社会経済的な要因も背景としていました。したがって、本書は狭義には医療史の本ではあるが広い意味では環境―生態的な意味だけでなく社会的な意味でも―の問題もあつかっており、開発、医療、環境を三つの柱とするこのプロジェクトの研究会で検討する意義は大きいと言えます。
読書会では、冒頭で先生から博士論文の執筆にいたる経緯、研究テーマをめぐる当時の学問的な状況、そして本書の刊行後に寄せられた批判について紹介されたあと、議論が交わされました。本書に対する批判のひとつとして、アフリカの現地社会の様子が描かれていないという指摘があります。この点に関連して、西アフリカの研究を専門とする参加者からは、西アフリカ一帯に商業ネットワークを張り巡らしているハウサの商人が登場し(第7章)、感染症対策の文脈で論じられるのが意外で興味深いという意見がありました。また、本書は―第一回の読書会で取り上げた『熱、諍い、ダイヤモンド』で著者のファーマーの表現を借りると―「ケアよりも管理」を正当化する論理の根強さをリマインドしてくれる著作として読めるという指摘が上がりました。それに関わる論点として、なぜアフリカで現場の医師たちは本国のコントロールを逃れて投薬実験を繰り返すことができたのかについて、磯部先生から興味深い補足の説明もありました。
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